Friday, 25 September 2020

寄付を深く考えなければならないと思った2本の記事と、ひとつの希望について

ガーディアンに、超富裕層のフィランソロピー活動に対する批判的な書籍の紹介記事があったのでご紹介します。

(本当に長いです)

https://www.theguardian.com/society/2020/sep/08/how-philanthropy-benefits-the-super-rich

私が読んでみて印象に残った点としては、

・Philanthropist(慈善家)が増えている

・こうした人々は、必ずしも困窮している人々のための活動に寄付するわけではない

・超巨額の寄付が、超富裕層の思い描く良い(=必ずしも他の多くの人にとっても同様に良いとは限らない)社会のための活動に流れ込む

・超巨額の寄付による社会への介入は、時として民主主義を脅かす存在になる

・ある種の非営利活動については、寄付控除をなくすとか、富裕層により高い税金を課すなどの対応が必要ではないか

といったものでした。
(短時間でざっと読んだ限りの情報ですので、ざっくりしていることをご容赦ください)


そして、この同じ本をきっかけにして、英国ケント大学のBeth Breeze先生が(非営利セクターを擁護する形で)論じている記事がありましたので、同様に紹介します。

https://www.beaconcollaborative.org.uk/news/talk-differently-about-philanthropy/

私が読んでみて印象に残ったのは、

・困窮している人への支援以外にも、望ましい社会にとって必要な寄付はある(村のホール運営、ボーイ/ガールスカウト、アマチュアスポーツ団体、等)

・寄付者は多様であり、巨額の富を使って自分にとって利益になる社会をつくろうという人々ばかりではない。むしろ、そのような動機は寄付のなかでは主要な動機ではない

・寄付者をバッシングする傾向は、寄付者からの恩恵を受ける人々を間接的に傷つけることになる

といった点でした。


Philanthropyは、「それぞれが望む社会に向けての寄付」だといわれています。

charityは、「困窮している人のための寄付」だいわれています。


日本にいると「ほとんど同じ意味じゃないか」と思えるかもしれませんが、もしも超富裕層のphilanthropistが、自分の望む社会(それは必ずしも多くの人にとって同様に望ましいとは限らないわけですが)に向けて巨額の資金を寄付として使い始めたら、それは民主主義を脅かす存在になる、という議論になっているわけです。


同様に、小口の寄付を莫大に束ねて大きな事業を行う非営利組織は、寄付者が納得しさえしていて法律さえ守っていれば、どんな事業でも行って良いでしょうか?


このような問いも、必然的に生まれてきます。


日本ではまだ、このような問いは切実なものになっていないかもしれませんが、主に日本で活動するファンドレイザーとして、自分は、こういう問いを今から考えておきたいと思います。


人々の善意が、社会の断絶ではなく、社会の能力―様々な状況に置かれた人を取り残さない、包摂する能力―を高めることにつながるように、ファンドレザーとして何ができるのかを考える必要があると感じています。


その意味で、寄付者に対してアドバイスをする組織が立ち上がったというニュースは、とてもうれしいものでした。

https://kifutant.jp/

組織に所属するファンドレザーは、その組織のミッションの下に働く存在であり、寄付者に対して中立的なアドバイスはしにくい構造があるからです。

寄付が社会をゆがめるかもしれない、という懸念が呈されているなかで、ひとつの希望だと思いました。


私は、ファンドレイジングの実務者として、また研究者として、「寄付者にとって何が良いことなのか、幸せなことなのか」を考えているのですが、それはつまるところ、

寄付者が社会に本当に貢献するとはどういうことなのか?

これからの社会は、どうあるべきなのか?

を考えていくということにほかならないのだと思います。


***

いろいろで時間がないのですが、これは書かねば!と思いましてブログ記事にしてみました。

厳密な議論が全然できていない気がするのですが、何かのコミュニケーションのきっかけになれば、と思ってインターネットの海に流そうと思います。


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ファンドレイザーの方のためのおすすめ書籍です

寄付を科学的に考えるための書籍リストです

社会人で博士を目指す方へのおすすめ書籍です

関係ないのですが実家のネコです。

Tuesday, 15 September 2020

RA協議会第6回年次大会で発表:大学の研究環境改善の好循環を回すために

 RA協議会第6回年次大会で、お話をさせていただく機会を頂戴しました。

http://www.rman.jp/meetings2020/I-1.pdf

このページには、主な内容、スライド、参考文献を掲載しています。

博士後期課程に入ってから初めての、研究に関連するプレゼンテーションでした。

入念なご準備と素晴らしいファシリテートをしていただいた信州大学の小林先生・三宅先生、参加くださって活発なご質問をいただいた方々に、御礼申し上げます。

私の父は、青森県の弘前大学で教員をしていたのですが、こうした発表やいくつかの大学でのファンドレイジングのお手伝いを通じて、日本の大学の未来に少しでも貢献できれば、と考えております。


<主な内容>

主な内容としては、下記のようなものでした。

・日本の大学の研究環境改善の取り組みは、体制不備、活動低調、資金制約の膠着状態に陥りがち

・日本の大学への寄付は、1)大学全体への寄付、2)部局への寄付、3)研究室・プロジェクトへの寄付 に分けられる。今回は、2)について議論する

・大学において多く配置されているのはURA。「研究のわかる人」として研究環境全体を企画したり、体制整備に向けて動いてほしい(広報・基金の専門職員は、URAよりも配置されていることがはるかに少ない)

・広報や寄付募集を考える際には、大学図書館で先行研究にあたるのが良い

・例えば寄付研究では、アイデンティティの重要性、寄付依頼の重要性、寄付における意思決定プロセス、寄付者が幸福を感じてもらえる条件などが部分的にわかってきている

・「寄付してよかった」と思っていただくための寄付金の有効活用にも、URAは貢献できる

・URA、広報、寄付募集の3つの専門性を組み合わせ、研究環境改善の好循環を回していきたい


<スライド>



<参考文献:英文資料>

Andreoni, J., & Rao, J. M. (2011). The power of asking: How communication affects selfishness, empathy, and altruism. Journal of Public Economics, 95(7), 513–520. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.jpubeco.2010.12.008

Andreoni, J., Rao, J. M., & Trachtman, H. (2017). Avoiding the Ask: A Field Experiment on Altruism, Empathy, and Charitable Giving. Journal of Political Economy, 125(3), 625–653. https://doi.org/10.1086/691703

Arnett, D. B., German, S. D., & Hunt, S. D. (2003). The Identity Salience Model of Relationship Marketing Success: The Case of Nonprofit Marketing. Journal of Marketing, 67(2), 89–105. http://10.0.5.229/jmkg.67.2.89.18614

Bekkers, R., & Wiepking, P. (2011). Who gives? A literature review of predictors of charitable giving Part One: Religion, education, age and socialisation. Voluntary Sector Review, 2(3), 337–365. https://doi.org/10.1332/204080511x6087712

Bennett, R. (2003). Factors underlying the inclination to donate to particular types of charity. International Journal of Nonprofit and Voluntary Sector Marketing, 8(1), 12–29. https://doi.org/10.1002/nvsm.198

Bjälkebring, P., Västfjäll, D., Dickert, S., & Slovic, P. (2016). Greater Emotional Gain from Giving in Older Adults: Age-Related Positivity Bias in Charitable Giving. In Frontiers in Psychology (Vol. 7, p. 846). https://www.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2016.00846

Bruttel, L., & Stolley, F. (2020). Getting a yes. An experiment on the power of asking. Journal of Behavioral and Experimental Economics, 86, 101550. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.socec.2020.101550

Chapman, C. M., Louis, W. R., & Masser, B. M. (2018). Identifying (our) donors: Toward a social psychological understanding of charity selection in Australia. Psychology & Marketing, 35(12), 980–989. http://10.0.3.234/mar.21150

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Worth, M. J. (2015). Fundraising: Principles and practice. SAGE Publications.

 

<参考文献:日本語資料>

・雑誌

保高隆之(2018).「情報過多時代の人々のメディア選択」『放送研究と調査』2018年12月号、p20


・書籍等

Levitt, T. (1979).『マーケティング発想法』ダイヤモンド社.

『認定ファンドレイザー必修研修テキスト』日本ファンドレイジング協会.


・インターネット上の資料

文部科学省(2015).「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査研究」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1371456.htm 2020年9月5日アクセス

みずほ総合研究所(2018).「都道府県別の高齢化と個人金融資産の状況」
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/urgency/report181213.pdf 
2020年9月6日アクセス

「仮説の論理構造」駆使し寄付金を5年で約4倍に」『ゴールドラット・ジャーナル』vol.007、2019年11月https://www.goldrattjournal.com/vol_007.html 
2020年9月17日アクセス  





『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』の執筆に参加しました

坂本治也先生編著『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』のうち、2つの章を執筆しました。 2023年12月8日が出版予定日です。11月27日現在、下記のとおりAmazonから現在予約できる状態になっています。 私は、 第10章 分野によって寄付行動に違いがあるのはなぜか? ...