2020年12月26日に、「ResearchFund3.0 - 研究費のイマを言語化し、ミライを予想する」というイベントに登壇させていただきました。
私からは、
・ここ数年の自分の仕事と、いまの職場である新しい財団がなぜ必要だったか
・大学や研究機関の寄付募集の最近の変化
・「研究のための寄付」がこれからどうなるだろう、という予測
をお話ししました。
企画くださった@T5uku5hi さん、今回もお世話になりました@hiro1987jpn さん、@RShibato さん、ありがとうございました!
当日の講演がYoutubeで公開されているので、下記に貼り付けておきます。
VIDEO
パネルディスカッションの様子は下記のnoteにまとめられています。
このイベントは、自分がぼんやりと抱いていた問題意識を明確にしていただいたものでした。
その問題意識とは、「どうやったら、学術研究は『みんなの豊かさ』につながっていくのだろう?」というものでした。
学術研究を豊かさにつなげるには?
そのひとつの答えは、
・学術研究の結果を、みんなが使いやすい形にしていく
ということで、それは私の専攻であるマネジメントサイエンスが志向するもの(経済学や心理学の研究結果を経営や実践の現場で活かすということ)でもあると思います。
マネジメントサイエンスを社会が活用するために必要なコストは、主に時間的リソース(学習コスト)や政治的リソース(組織内の意思決定・コミュニケーションのコスト)で、知見そのものは書籍などの形で市場に流通しており、比較的低コストで手に入ります。
しかし、医学研究の成果などは、制度的な問題、法的な問題、倫理的な問題なども関わるため、もっと大がかりな仕組みを社会の中に整備しなければ、多くの人が使えるようにはならないように思われます。
そんなことを考えていたときに、下記の書籍に行き当たりました。
独立行政法人経済産業研究所(RIETI)所長の矢野誠先生の指摘が非常におもしろく、科学技術を豊かさにつなげるためには、質の高い市場 が必要だ、との主張を展開しています。
産業革命など、科学技術が急激に進歩すると市場にゆがみが生じて大恐慌などの危機的な状態が生じる場合が多く、それが新たな法律、精度、倫理、監修、文化などで修正されることで、市場がその質を回復する、とのこと。
私の立場から考えると、これは
「質の高い寄付市場とはどんなものか」
「質の高い再生医療市場とはどんなものか」
という問いにつながる話です。
再生医療市場についてはまだここで書けるようなことはないのですが(私などの話よりもAMEDがアーサー・D・リトル・ジャパンに委託して行った
この調査 はすごいのでぜひご覧いただきたい)、下記では、寄付市場について少しだけ触れたいと思います。
寄付市場における科学技術の急激な進歩
寄付市場でいえば、ビットコインという技術が、急激な進歩を生んでいます。匿名性の高い形で、国境を越えて、安価に、小口の寄付を、透明性高くトランザクションできるようになった、ということが言えると思います。
「良い市場とは何か」を考えたとき、「多くの人が参加できる」という特性や「トランザクションコストが低い」ということは見逃せないものであり、そのためにインターネットやブロックチェーン技術がどんな役割を果たせるのか、には私も大変関心があります。
一方で、技術の進歩に任せていても、市場が健全な形で発展するとは限らない、ということは先の書籍でも指摘されていたことです。
例えば、こうした技術的進歩は、過激派団体に対する寄付を促進してしまうリスクもあります。
寄付においては、誰が市場の番人を務めれば良いのでしょうか。
クラウドファンディングで多くの人や組織が寄付を募集できるようになったとき、「キュレーター」という職種が各クラウドファンディングプラットフォーム企業内にあらわれて、ページや寄付募集の趣旨の質を担保してきている(および反社会的勢力の排除などのリスク対策の役割を果たしている)と思います。
個人的には、「学術研究やその実用化への寄付」という市場が健全な形で拡大することは、非常に大切だと思います。
なぜなら、その市場に投じられたお金は、「学術研究やその実用化によって生まれる別の市場」を育てる力になるからです。
寄付市場とはどんな特性や役割を持つ市場なのか、という話もしていきたいのですが、長くなったので今回はこれくらいにしたいと思います。
※なお、市場を整えていくというのは長期的な取り組みであり、現在のCOVID-19のような緊急的な状況では、科学が社会に貢献できるかどうかを左右する鍵は「メディア」だと感じています。
メディアの方々は、どうか、その社会的責任を自覚いただき、メディアが不安を喚起して差別や分断をあおってきた歴史的な経緯への反省もふまえていただき、科学的に妥当な内容を報道いただきたいと思います。非営利メディアの可能性と課題も、いつか取り組みたいテーマです。
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