原稿をひとつご依頼いただき、社会的健康と向社会的行動(寄付やボランティアなど)の関係について調べています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」
これは、日本WHO協会が翻訳した、1947年のWHO憲章による健康の定義です(太字・傍線は自分がつけたものです)。「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」によると、社会的健康は
「他人や社会と建設的でよい関係を築けること」
だそうです。
へえ、と思って社会的健康と寄付・ボランティアについてちょっと調べてみました。
「社会との結びつき」は健康や長寿に強い因果関係があるようで、そのメカニズムについても研究されていました(Yang et al., 2016)。
ボランティア活動は、139か国を対象とした研究でも、主観的な健康度と有意に関連していたそうです(Kumar et al., 2012)。
ボランティアのみならず、寄付が後年の精神的健康に資するという研究結果もあり(Choi & Kim, 2011)、特に地元の団体への寄付がウェルビーイングと関連するそうです(Appau & Awaworyi Churchill, 2019)。
寄付やボランティアで健康になったり幸せになるなら嬉しいことですが、社会的行動で幸福度が上がる効果は短期的なものでは?と疑問を投げかける研究もありました(Falk & Graeber, 2020)。
それに加えて「自分が幸せになるために寄付をしましょう」というメッセージは寄付を促進するどころか逆効果であることも示唆されています(Anik et al., 2009)。
人を助けることが幸せにつながるメカニズムが一体どうなっているのか?という問いについては多数の研究をもとに議論されてきており(Aknin & Whillans V, 2021)、興味は尽きません。
Aknin, L. B., &
Whillans V, A. (2021). Helping and Happiness: A Review and Guide for Public
Policy. Social Issues and Policy Review, 15(1), 3–34.
https://doi.org/10.1111/sipr.12069
Anik, L., Aknin, L.
B., Norton, M. I., & Dunn, E. W. (2009). Feeling good about giving: The
benefits (and costs) of self-interested charitable behavior. Harvard
Business School Marketing Unit Working Paper, 10–012.
Appau, S., &
Awaworyi Churchill, S. (2019). Charity, Volunteering Type and Subjective
Wellbeing. VOLUNTAS: International Journal of Voluntary and Nonprofit
Organizations, 30(5), 1118–1132.
https://doi.org/10.1007/s11266-018-0009-8
Choi, N. G., &
Kim, J. (2011). The effect of time volunteering and charitable donations in
later life on psychological wellbeing. Ageing and Society, 31(4),
590–610. https://doi.org/DOI: 10.1017/S0144686X10001224
Falk, A., &
Graeber, T. (2020). Delayed negative effects of prosocial spending on
happiness. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United
States of America, 117(12), 6463–6468.
http://10.0.4.49/pnas.1914324117
Kumar, S., Calvo, R.,
Avendano, M., Sivaramakrishnan, K., & Berkman, L. F. (2012). Social
support, volunteering and health around the world: Cross-national evidence from
139 countries. Social Science & Medicine, 74(5), 696–706.
Yang, Y. C., Boen, C.,
Gerken, K., Li, T., Schorpp, K., & Harris, K. M. (2016). Social
relationships and physiological determinants of longevity across the human life
span. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(3),
578–583.