Saturday, 14 March 2020

大学の寄付募集:本部と部局の関係を考える

大学では、本部が募る寄付金と、部局(研究所・学部など)が募る寄付金があります。

部局が募る寄付金の例は、私がこれまで携わってきている「京都大学iPS細胞研究基金」など。大学にもよりますが、近年は総合大学だと多数の部局基金が設置される傾向にあります。

本部が募る寄付金の例は、「○○大学創立○○周年記念募金」などが一般的です。こちらは、どうしても部局が募る寄付と比べて、寄付者からすると使い道が漠然としているように感じられがちです。

本部と部局がファンドレイジング活動で競合してしまわないように分担を分けている大学もあれば、そのような調整がなかったことで企業から「○○大学は、しょっちゅう違う部局や本部が寄付を頼みにくる。どうなっているのか」とお叱りを受ける例もあるようです。

本部と部局の関係はどうあるべきなのか・・・そんな課題を持っている大学ファンドレイザーの方にとって、ヒントとなる論文があったので紹介します。

前回、論文検索に使っている検索ページのリストを公開したのですが、SAGEで、論文タイトルで検索すると出てくる論文です。
https://watanabefumitaka.blogspot.com/2020/02/blog-post_24.html?m=1

AMA(アメリカマーケティング学会)の、Journal of Marketingに出たもので、

「Developing Donor Relationships: The Role of the Breadth of Giving」

というタイトルです。

全文はアクセスできる方とそうでない方がおられると思いますが、概要はこちら。
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1509/jm.14.0351

・米国の大型公立大学の20年分の寄付データを利用して研究

・複数のイニシアチブに寄付している寄付者は、次回の寄付をする確率が高く、寄付額が大きく、ネガティブなマクロ経済的要因に左右されにくい

・初回寄付の段階では多くの寄付者が1つのイニシアチブに寄付し、寄付者の内在的な要因が強く作用する

・寄付者と大学の関係が発展するにつれて、大学側の働きかけが影響して複数のイニシアチブに寄付するようになる

・フィールド実験によって、非営利組織側が働きかけることで寄付の幅を広げる(より多くのイニシアチブに寄付すること)よう促すことができることを実証


「イニシアチブ」を大学における個別の部局基金だとすると、複数の部局基金に寄付していただけるように促すことが、寄付者との長期的な関係を築くうえで重要(そしてそのような寄付者はより大学に対してサポーティブになる)という仮説が成り立ちそうです。

また、本部の寄付募集に比べて、フォーカスの絞られた部局の寄付募集は有利な条件にありますので、まずは特定部局の寄付募集活動を通じて寄付者になっていただき、その後で大学の多面的な魅力を知っていただくことで本部への寄付、他部局への寄付についても検討していただくという戦略がありえるのでは、と思います。

大学の本部と部局は、寄付募集においてどのように協力するべきか?

日本の大学でも課題になりつつあるこの問いに、こうした研究を読んでいくことによってより妥当な答えが出せるようになりたいです。

実務の合間のパートタイム研究者なので、歩みは亀くらいのスピードではありますが・・・。



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坂本治也先生編著『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』のうち、2つの章を執筆しました。 2023年12月8日が出版予定日です。11月27日現在、下記のとおりAmazonから現在予約できる状態になっています。 私は、 第10章 分野によって寄付行動に違いがあるのはなぜか? ...