Friday 31 January 2020

「成功事例」でなく、「理論」から寄付募集を考える

とにかくたくさん論文を読み、少しでも書く。夜と週末は、そんな生活をしております。

現在は、寄付についてのレビュー論文を執筆中です。

インターネットはすばらしいところで、こんなコンパクトでわかりやすい英語の論文推敲に関する資料が載っていたりします。
https://wwwmpa.mpa-garching.mpg.de/~komatsu/presentation/paper-writing-tips.pdf

この中で紹介されていた文章術についての本、kindleでなんと119円。即購入しました。

literature review(先行論文調査)の方法については、先の記事で紹介した日本語の本も良かったのですが、今はこちらを参照しながら論文を書いています。



Systematic Approaches to a Successful Literature Review


このブログで紹介した論文などには、寄付やファンドレイジングについて数百の論文をチェックしたレビュー論文もあり、本当に頭が下がります。

さて、今日の本題です。

ファンドレイジングについて詳しくなるためには、別に論文を読まなくても、成功事例をセミナーで聞いて、実務者の人に教えてもらって研鑽を積めばよいのでは・・・?

と思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。

実は、私はこれに反対の立場を取りつつあります。

ここ20年くらい寄付やファンドレイジングに関わってきて思うのは、「成功事例を見て他の人が真似しようとしても、再現できないことが多い」ということです。

なぜ成功したのか、その成功に不可欠だった要素は何か、といった検証がなされて、その要素を備えた他のケースで成功が確認され、それが何度も繰り返し再現されているならば、それは「理論」という位置づけに近づくと思います。

(デジタル大辞泉によると、理論とは「個々の現象を法則的、統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系」だそうで、ここではそれくらいの意味で使っています。ちなみに、理論とは何か?という問いに正面から答えているこちらの論文を読んで、今の社会学における混沌具合が少しわかりました。こちらのnoteも参考になります)

ファンドレイジング研究は多くの実証研究の蓄積があり、理論構築の試みも重ねられてきました。

いま自分が非常に注目しているのはAndreoni先生のこちらの論文です。

Capital Campaignsという、寄付を使った活動が始められるようになるまでのフェーズの寄付募集について、ナッシュ均衡を使って数学的に分析されている論文(のよう)です。

こういう論文から、日常の仕事に使えるような比較的広く使える理論を引き出して、それを個々の場面に当てはめることができれば、「事例をたくさん聞いて、誰がどんなことをしているかは知っているが、自分ではあまりできない」という状況から抜け出し、成功事例を再現できるのではないか・・・!と思っている次第です。

逆に言うと、理論をいくつか頭の中に置いておけば、個々の事例についてより深く理解ができるのではと思っています。

ファンドレイジング上の課題に直面する実務者には、事例コレクターをしている余裕はないことがほとんどだと思います。たとえば、新卒でNPOを立ち上げた方には、ひとつひとつの事例で経験を積んでいくよりも、切れ味のある理論で、できる限り、最短距離で成功していただきたい。

だからこそ、あえて遠回りのようになりますが、理論を学んで、それを現実にあてはめるという方法を取るべきなのではと思います。

(個人的には、TOC(制約理論)はかなりあてはまるシーンが多い、有用性の高い理論に思われます。詳しくは、こちらのページの推薦図書をご覧ください)


「そうだそうだ!」という方、直接お会いした際にはぜひ、どんな理論でファンドレイジングの成功が説明できそうか、再現性が確保できそうか、ディスカッションしましょう!(そんな奇特な方がおられれば、ですが・・・。ご連絡をお待ちしております)

Sunday 26 January 2020

大学院の試験が終わりました/行動経済学について

昨日、大学院博士後期課程の入学試験(面接)でした。

もともと分かっていたことではありますが、「これは、かなり狭き門だな」という印象でした・・・。しかし、自分の研究についてこれだけ短時間に、真剣なたくさんの質問を受けることは今までなかったので、大変参考になりました。「こういう厳しい先生方から、ここで研究できたらどんなに良いだろう」と思った次第です。

合格したら博士後期課程の学生として、落第したら在野の研究者を目指してがんばろうと思います。(落第の可能性はかなり高い気がしますが)


前の記事「働きながら38歳で経営科学の博士号を目指すことになった流れ」で書いた、5年くらいモヤモヤしていた自分に、強烈な刺激をくれた分野・人があります。

「行動経済学」という分野です。

これまでの経済学が仮定していた「合理的な経済人」を、より人間らしい存在として考え直し、その上に構築されてきた分野です。

最初は、無料のこの資料を他の研究者の方から教えていただいて「へえ!」と思いました。
https://www.bi.team/publications/applying-behavioural-insights-to-charitable-giving/

近所の古本屋さんでこの本に出会い、夢中で3回くらい読みました。



行動経済学 -- 伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して 

学部時代は神経科学もかじっていた自分は、もう一度大学に入るなら行動経済学徒になるかもな!と思うくらいでした。

依田高典先生というすごい先生が京大のおられると知ったのもそのころ。依田先生のフィールド実験の論文を読んで、「これはすごい!」と興奮したのを覚えています。
(もう5年前のツイートですが貼っておきます)





その後、有名な先生方が書かれた『その問題、経済学で解決できます。』 を読んでいたのですが、なかなか満足できずくすぶっていたころ、ある研究会に定期的に実務者として参加させていただける機会を得ました。

それが、博士後期課程を目指す大きなきっかけとなりました。

「本来、こういう実務への橋渡しを経済学者がやっているのはおかしい気がする。経営学者の仕事ですよね。」

そんな言葉が、研究会のあとの懇親会の中で、出てきたことがありました。

「経営学」という分野の社会的な役割を考えるきっかけになったひとことでした。

その思いは、自分は行動経済学者にはなれないかもしれないが、行動経済学、(学部生時代に自分が学んだ)社会学、マーケティングサイエンス、統計学などを実務者の視点で非営利組織経営に実装するための科学(implementation research)をやろうという意欲につながっていきました。

その研究会のメンバーの主催の先生、参加者の皆様には、心から感謝しております。


大学院には入れるかどうか全くわかりませんが、これからも、新しいことを学んで、それを実務に活かしていくことで、少しでもより良い未来を自分のまわりにつくっていけるようにがんばります。


(追伸:これまで、大学院試験に関係ない本や文献は読むのを我慢していました・・・。今日からは、下記の本を読んで楽しもうと思います!)



行動経済学の現在と未来

Friday 17 January 2020

働きながら38歳で経営科学の博士号を目指すことになった流れ

今回の記事では、働きながら経営科学の博士号を目指すことになった流れを記録しておこうと思います。

1.モヤモヤ期(5年くらい)

数年前から、自分はこれからどうしたらよいのか、とあれこれ悩んでいました。

実務者として働きながらも、もっと勉強したいという思いを抱えつつ、いろんな本を読んだり、MOOCでいくつかの授業を受けてみたりしていました。

『計量社会科学』という本がとても面白くて、この本をしっかり読めるようになりたい、書かれていることを実務に活かしていきたい、といったことを考えていました。

マーケティングに関わる人ならおそらく多くの方が読んでいるであろう『確率思考の戦略論』という本にも、非常に熱中しました。こうした読書の中から、もっと勉強したい・・・!という熱が高まっていました。

そんな中、2015年にkindleで手に入れたのがこちらの本でした。



『働きながらでも博士号はとれる』 というストレートなタイトル。その名前のとおり、著者の方が働きながら博士号を取得したプロセスをたどりながら、どのような準備・心がけ・作戦が必要なのかを書いた本でした。

「そうか、ただ実務者として仕事をしながら勉強するのではなく、博士課程に入るという手があるのか・・・」と思った記憶があります。

博士課程であれば、

・指導者に相談しながら
・ただ勉強するのではなく、新しい学問的貢献を目指して
・明確な年限と目標を持って

学ぶことができる、と考えました。しかし、それにかかる費用や時間、様々な困難を考えるとまだモヤモヤしていました。
モヤモヤしながらも、あれこれ論文を読んだり、何とかブログで自分の研究した内容をまとめて発信してみようと試みたりしていました。

2.博士課程を真剣に考え、準備して出願(2.5か月)

2019年秋にある人が亡くなり、そのお別れの会に参加しました。その帰り道、一緒にいた人に背中を押してもらって、出願を決心しました。

自分のテーマは非営利組織の寄付マーケティングなのですが、それにアプローチするための分野としては、政策科学と経営学で迷ったあげく、経営学を選びました。

やはり自分は、学術コミュニティへの貢献だけでなく、得られた学問的知見を(それは必ずしも自分が生み出した学問的知見でなくて良いのですが)非営利組織における実務者として社会に実装して、現実を変えていくことに関心がある、と思ったからです。
学部時代は総合学部で学んでいたので、経営学の持つ学際性も自分に合うのではと思いました。

政策科学的なアプローチで学んだとしても、いま既に30代後半である自分が政策立案側になることはないだろう、ということも決定に影響しました。逆に、年齢が上がるにつれて組織経営に近い立場で仕事をすることが多くなる中、体系的に経営を学んで自分を叩き直さなければ、という意識もありました。

指導教官候補の先生にコンタクトさせて頂き、研究計画にゴーサインを頂いて出願したのは京都大学の経営管理大学院でした。
http://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/ja/education/management-science/277-japanese-category/educational-activities/eductional-structure/doctor-of-philosophy.html

お忙しいところお時間を割いていただいた指導教官候補の先生や、研究計画に個人的にアドバイスを頂いた方々には、本当に感謝しています。


3.出願後、経営学全般と研究について学ぶ(1カ月)

出願後、「自分の専門分野(非営利組織の寄付マーケティング)についての論文は読み続けるとして、そもそも経営学についてもっと知っておいた方が良いのではないか・・・」とあらためて読んだのは下記の本でした。

『ハンドブック経営学』 



これがまた本当におもしろかったです。組織で働く人が行き当たるであろう様々な課題に、科学的なアプローチで迫る、大変刺激的な読書体験でした。

早稲田大学の入山先生 が書かれた下記の書籍も、最近の経営学研究の動向を学ぶのにとても役立ちました。



『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』

自分の専門分野は英語の論文を直接読めても、少し分野が外れると「ざっと分野全体を把握するのに適切な書籍」を探すのに苦慮します。そのようなときに、一般向けに書かれたこのような書籍は非常に重宝します。興味があれば、参考文献で挙げてくださっている原著にあたれば良いわけで、このような経営学の書籍があるのは本当にありがたい。

また、研究とは何か、博士課程とはどういうプログラムなのか、ということについても本を読みました。前回の記事で紹介した『研究の育て方』もたいへんな名著でして、大学院入試に向けて、この本を使って自分の研究計画の客観的な位置づけを見直したりしています。

それに加えて、下記の書籍も本当に読んでおいて良かった本です。
『博士号のとり方[第6版]―学生と指導教員のための実践ハンドブック―』

 
指導教員とどうコミュニケーションをとるべきか、博士課程の特徴とは何か、想定されるトラブルにどう対処するのか、自分が博士課程を目指す者としてどの程度の準備ができているのか(チェックリストで自己診断できる)など、さすが世界的なベストセラーと思える本でした。

本職は研究者を支援する職種なのですが、「研究とは何か」を知ることで、自分の「研究支援者」という仕事についてもより深く理解できたという収穫がありました。

4.モヤモヤ期ふたたびか?それとも・・・

改めて振り返ると、モヤモヤ期の長いこと・・・。しかし、この時期に悩むだけでなく本や論文を読み、MOOCを受け、あれこれとアイデアをノートに書いてみたりブログに書いたりしていたことがなかったら、この短期間で研究計画をまとめることはできなかったと思います。

そして、入試に落ちればまたモヤモヤ期に後戻りかと思うと、正直なところげっそりするのですが、とにかく入試準備をがんばりたいと思います。




Sunday 12 January 2020

ファンドレイザーにも役立つ「先行研究調査」

寄付研究の第一歩は、先行研究調査です。先日の記事のように、寄付を研究した論文は心理学・経済学(行動経済学・公共経済学)・経営学・行動科学(意思決定論)・社会学・非営利組織研究・法学などに散らばっていますので、いかに網羅的に、かつ必要な論文を効率的に収集するのか?が重要な課題です。

ファンドレイザーにとっても役立つ

ファンドレイザーなどの寄付に関わる実務者にとっても、先行研究調査は役立ちます。私はここ20年ほど、ボランティアや有給の仕事としてファンドレイジングに携わっておりますが、より良いファンドレイジングを行うためのヒントを論文から得たことが多くあります。

たとえば、寄付を呼び掛けるウェブサイトにどんな写真を掲載するべきか?遺贈について倫理的にNGとなる寄付募集はどんなケースか?などなど。論文さまさまです。

総説論文を手に入れたいが、日本語では見つけられず

個別の論文を読むのも良いのですが、総説論文が手に入ると、効果的に「研究の現在地」を把握できます。

残念ながら、google scholarやCiNiiでは、「寄付 総説」「charity 総説」などのキーワードで日本語の適切な文献を見つけることができませんでした。(日本語での寄付・ファンドレイジング研究の総論は、いつか自分も書きたい!と思っております)

むやみに文献調査をスタートするのは効率的ではないので、まずは先人がどんな先行研究調査をしたのかがわかるreview articleまたは総説と言われるものをチェックしたのが下記の記事です。

https://watanabefumitaka.blogspot.com/2019/12/charitable-giving-handbook-of-public.html

https://watanabefumitaka.blogspot.com/2019/12/eight-mechanisms-that-drive-charitable.html

レビュー論文の書き方についての論文

ここで、神戸大学の服部先生が先行研究レビューについてつぶやいているのを目にしまして、いったん論文収集をストップし、「そもそもレビューをどうやって書けばよいのか」についての文献にあたっているところです。



他にも、NIHのウェブサイトで下記のようなシンプルな記事も見つけました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3715443/
こちらも。
https://www.editage.jp/insights/5-tips-to-write-a-great-literature-review

そもそも、研究とは?


また、そもそも研究をするというのはどういうゴールに向けての、どんなプロセスを経るものなのか?についても良い本が見つかったので、そちらを読んでいるところ。

この本は、「研究」をサポートする仕事(研究所の職員、秘書、大学ファンドレイザー、新人URAなど)に就いている人にもおすすめしたい素晴らしい書籍です・・・!







Friday 3 January 2020

Fascination of charitable / philanthropic giving research 寄付研究の魅力

Charitable giving is an enduring and attractive theme in various disciplines. For classical economists, it is one of anomalies because homo economicus would not make a donation. For behavioral economists, it is one of the best opportunities that they can "nudge" a certain behavior. (For those who would like to apply behavioral economics to charitable giving, I recommend this document by The Behavioral Insight Team. More recently, this article in Stanford Social Innovation Review was highly suggestive) Public economists often view charitable giving as a subject of policy research such as tax deduction. This book contains a comprehensive review of philanthropy from public economics viewpoint by Dr. James Andreoni.

For sociologists, philanthropy and charity are important social act that can be affected by social norms and settings. At the same time, it consequently affects a society by providing social benefits. (I found this article by Dr. Emily Barman that describes contributions of sociologists in philanthropic studies)

Of course, psychologists have contributed our understanding of charitable giving through extensive research on altruism and pro-social behavior.

For practitioners in nonprofit organizations, charitable giving is an important resource of their activity. Based on this fact, nonprofit management scholars also have tried to understand the factors that drive charitable giving. Marketing scientists have also studied this theme such as Cause Related Marketing (CRM) as a part of consumer research. Decision scientists contribute in this field too. In addition, effective philanthropy, venture philanthropy, and social impact studies are making this field more exciting.

Scholars who study law and tax have also contributed in this field by investigating in regulation of fundraising, bequests, tax deduction, gift of securities or land, and so forth.

Finally, I would like to emphasize the future possibility of charitable / philanthropic research in developing countries. Current literature on charitable / philanthropic giving is mainly from developed countries. However, as charity culture grows in developing countries, more needs for marketing studies that focus on each country. Since charitable / philanthropic behavior is affected by social norms and settings, native scholars in each country have more opportunity to conduct effective research on this theme.

Multi-disciplinary, deep and broad, and socially important in future society.
I am completely fascinated by charitable / philanthropic research.


寄付というテーマは、経済学(行動経済学、公共経済学)、心理学、社会学、経営学(マーケティング、意思決定論)、法学、非営利組織研究などにまたがる領域であり、寄付文化の成熟に伴って途上国でも重要性が高まってくる非常に有望なテーマです。

この学問的なおもしろさは、もっと多くの研究者・学生の方々に知っていただきたい・・・!!

まだ見ぬ本ブログ読者の皆様と議論できるのを、楽しみにしています。



『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』の執筆に参加しました

坂本治也先生編著『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』のうち、2つの章を執筆しました。 2023年12月8日が出版予定日です。11月27日現在、下記のとおりAmazonから現在予約できる状態になっています。 私は、 第10章 分野によって寄付行動に違いがあるのはなぜか? ...