Friday 20 March 2020

寄付者にとって、「寄付の効果」と「自分の好み」のどちらが大切?

先日、近しい人が亡くなりました。がんでした。

新しい医学を目指す研究を支援する仕事についていながら、何もできなかったな、という思いを噛み締めています。

大学のファンドレイジング(寄付募集)担当者という仕事柄、高齢の寄付者の方の、訃報を受けることもあります。

医学研究の成果に期待されている闘病中の寄付者から、「何でもっと早くできないんだ!」と叱責を受けることもあります。


自分達のチームが寄付者の方々からお預かりした寄付を、研究者にどう使ってもらえば最も研究が進むのか?

もっと良い活用方法がなかったか?


当然ながら、寄付をどう活用するか考え抜いた上で「使途(使い道)」が設定されているわけですが、それでも、もっと研究に貢献する画期的な使い道はないのか?と考えてしまいます。

寄付の「効果的な使い道」についての研究がもっと必要


私がざっと検索・調査した範囲では、これまでの寄付研究は「人はぜ寄付をするのか」や「寄付を増やすにはどうするべきか」という問題意識のものが多く、「寄付をどう活用するか」というものはあまり多く見つかりませんでした。

著名な科学誌である『Nature』では、下記のように「寄付の有効な使い方についてのエビデンスがもっと必要だ」という記事が載ったこともあります。

https://www.nature.com/news/we-need-a-science-of-philanthropy-1.22100

近年、Effective philanthropy(効果的な慈善活動), effective altruism(効果的な利他主義)という主張が哲学や倫理学の分野から生まれてきています。

また、2019年のノーベル経済学賞は、(財源は寄付とは限りませんが)貧困の削減に対して実証的に取り組む研究が脚光を浴びており、こうした手法の応用も期待されるところです。

https://www.newsweekjapan.jp/amp/stories/world/2019/10/post-13229.php?page=1


寄付者にとっては、「寄付の効果」よりも「自分の好み」?

しかし、こうした研究の成果がファンドレイジングの実務に活かされているかというと、(ごく限られたケースを除くと)そうでもない、というのが日本の寄付募集の現状だと認識しています。

現に、寄付は(その寄付先や使い道が効果的であるかどうかよりも)個人的な好みで意思決定される傾向があるという研究もあります。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797617747648

つまり、

・どうやって寄付の効果的な使い道をつくりだすことができるか
・それを寄付者の方々が好むかどうか
・それを好んでもらえるようにファンドレイザーはどうコミュニケーションすべきか

という3点が、重要な課題であると考えています。

私が博士後期課程で経営学(マーケティング)を選んだのは、科学的な研究をしたいということに加え、様々な研究成果を現場に活かす力をつけたいという考えがあってのことでした。

マーケティングは、顧客中心の考え方です。どんなに効果的な寄付の使い道であっても、それを(顧客である)寄付者が好まなければ、広がっていくことはないだろうと思います。

今回のコロナウイルス感染症のパンデミックにおいても、集められた寄付がどう使われるべきか、どうすればもっと多くの人の命を救えるのか、といった課題の検討は急務だと思います。


この分野に少しでも多くの人が関心を持ってくださり、議論が進むことを願っています。


それではまたー。










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