Saturday, 8 February 2020

ゲーム理論で「寄付」を分析した論文のこと

寄付研究の世界には、Andreoni先生という偉大な研究者がおられまして、warm-glow(直訳すると「あたたかい光」。寄付そのものから寄付者が受ける効用のこと)という概念を提唱したことでよく知られています。

Andreoni先生のすごい論文は他にもたくさんありますが、その中でも(前回の記事でも触れたのですが)一生懸命自分が読んでいるのが下記の論文です。

https://econweb.ucsd.edu/~jandreoni/Publications/JPE98.pdf
Journal of Political Economy, 1998, vol. 106, no. 6

20年以上前の論文ですが、ファンドレイジングに関わる人には非常に役立つ考え方だと思います。

ゲーム理論で寄付を考えるという部分も非常におもしろいのですが、この論文では、「ある一定額の寄付が集まらないと社会に対する効果が出ないような活動」を設定しています!

たとえば、公共の施設を寄付で建てようとしたとき、建設に必要な額が集まらないと、その施設を使ってもらうことはできませんよね。

そのようなキャンペーンは、「X円で途上国の子どものための薬がY人分買えて、命が救えます!」といったキャンペーンと比べるとファンドレイジングの難易度が高いと思われます。

寄付を検討する方の立場からすると、「自分が多少寄付しても、建設に必要な額が集まるかわからないしな・・・」「建設に必要な額が集まらなければ、寄付が無駄になるかもしれないぞ・・・」といった懸念が出てきます。

こうした難しさが、なぜ発生してくるのか?を、ナッシュ均衡(Nash equilibrium)を使って鮮やかに描いています。

そして、その「均衡」を破って寄付を募るためのリーダーシップギフト(Leadership gift:キャンペーン正式開始前の大型の寄付)の効果などを理論的に説明しています。

こうした理論は、他の理論(例えば行動経済学など)とともに、クラウドファンディングにも応用されています。

(寄付を募る側だけでなく)寄付をする側の立場の方々にも、より良い意思決定のために、このようなモデルの話を紹介していきたいと思っています。


意思決定といえば、こちらの本も大変おもしろかったのでご紹介。様々な学術研究から、よりよい人生を送るための意思決定方法について(そして人が陥りがちな思考のクセなどについて)平易に書かれています。

Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法



日本語で読んだ紙の本があまりにおもしろかったので、英語の勉強がてらKindleで英語版を買いました。
研究に必要な英語力もがんばって高めたいと思います。

『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』の執筆に参加しました

坂本治也先生編著『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』のうち、2つの章を執筆しました。 2023年12月8日が出版予定日です。11月27日現在、下記のとおりAmazonから現在予約できる状態になっています。 私は、 第10章 分野によって寄付行動に違いがあるのはなぜか? ...