Saturday, 15 February 2020

新型コロナウイルスとマスクの例から、消費者の意思決定プロセスを考える

新型コロナウイルスが猛威を振るっているなかではありますが、今週も寄付研究のためのブログ更新です。

今回は新型コロナウイルスによる肺炎をテーマに、寄付研究のためのアプローチとして私がいま勉強している意思決定論の話を書こうと思います。


今回の新型コロナウイルスによる肺炎の流行によって、マスクが大変な品薄になりました。

専門家のなかには、一般に売られているマスクは、「マスクをする人にとっての予防」よりも、むしろ「感染を拡大しないため」のものである、と指摘した方もおられました。

つまり、マスクが品薄になるのは、合理的な消費活動によるものではない、という指摘だとも言えます。

この話を、意思決定の理論から考えるとどうなるか。

精緻化見込みモデル

ペティとカシオッポによる「精緻化見込みモデル」という意思決定モデルがあります。

消費者は、消費に関する態度の形成を、

論理的に決める中心的ルート
と、

感情的に決める周辺的ルート

に分けるものだ、というものです。

前者では論理的に商品を評価し、後者ではイメージなどの感情的な要因で商品を評価し、態度を決める。

どちらのルートで態度が決まるかは、その消費者の動機付けの程度と、商品評価能力で決まる

・・・というモデルです。


具体的には、精緻に考える動機が強い場合(たとえば、商品が高額である等)では、消費者の態度形成は、図の下方向、中心的ルートに向かいます。

しかし、精緻に考えるための能力がない場合(たとえば、商品についての知識があまりない等)は、右方向、周辺的ルートでの感情的な意思決定が大きなウエイトを占めてしまいます。

新型コロナウイルスによる肺炎の例では、ほとんどの消費者の方々は、

1)マスクは安価なので精緻に考える動機があまりない

2)マスクの性能についてよく知らないので精緻に考える能力がない

ということで、感情的意思決定のウエイトが高くなってしまったのだろうと考えています。



このモデルは、下記の書籍で平易に解説されており、大変勉強になります。



この書籍で精緻化見込みモデルについて「注目すべき点」として描かれているのは、

・中心的ルートによる意思決定のウエイトが高い場合には、構築された態度は強く選択に結び付きやすい

・周辺的ルートでの態度は相対的に弱い態度であり、他の情報が加わると変化しやすい
(たとえば、「マスクが高値になっているらしい」と聞いたことで、買おうという態度がなえてしまう等)

というポイントです。

もちろん、消費者はどちらかのルートだけで態度を決めることは少なく、両方を考え合わせて態度を決めることが圧倒的に多いわけですが、どちらのウエイトが大きいのか、を検討することで、選択行動を予測しやすくなります。


寄付に応用するとどうなるか

寄付にこの理論を応用するとどうなるか?というのが、現在私が取り組んでいる論文のなかで出てくる課題です。

寄付は一般的に感情的な意思決定だと思われていますが、精緻な意思決定をするべき(精緻化の動機が高まる)場面としてはどんなものがあるのでしょうか。

ファンドレイジングに携わる方ならば、少し考えただけでも、遺贈や相続財産の寄付など、精緻に決めなければならなさそうなシーンが思い付きますよね。

また、精緻化の能力を高めるためには、ファンドレイザーはどういう情報を提供すれば良いのでしょうか。

つまり、どうすれば、寄付者にとって納得できるような意思決定ができるのでしょうか?

日々、こんなことを考えています。


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