Saturday, 4 December 2021

『寄付白書2021』の執筆に参加して考えた、寄付の配分の未来

今年、4年ぶりに『寄付白書』が発行されました。

これは、「日本の寄付市場」の全体像を明らかにするために2010年から断続的に発行されてきた資料です。

私も何度そのデータを使ったか分からないくらい、ファンドレイジングに携わる者としても、研究者としてもお世話になってきました。


今年の寄付白書には、ほんのわずかですが、執筆者のひとりとして参加させていただくことができました。

第2章「新型コロナウイルス感染症と日本の寄付」の、「コロナ禍の寄付の流れ」と「コロナ禍のファンドレイジングのオンライン対応」という記事を担当しています。

内容の一部は、下記のインフォグラフィックが公開されておりますため、ご参照いただけます。

https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/GJ2021_infographic.pdf


数十年後、研究者や行政担当者が、「2020年代のコロナ禍において、当時の人々はどう反応したのだろうか?」という問いを持つこともあるでしょう。

そのようなときの基礎的資料として読まれる可能性が高い、という大変な責任があることを自覚しつつ、ベストを尽くして執筆しました。


「寄付の配分」の未来

そして、執筆のための調査で明らかになってきた現実に対し、自分の中に新しい問いがいくつも生まれました。

そのひとつは、

「今回のコロナ禍では、本当に困っている人のところに、寄付による支援が、ちゃんと届いたのか?届いているのか?」

というものです。

この問いは、資源の最適な配分を目指す経済学が抱く問いであると同時に、公共政策的な観点からも、為政者が抱いてしかるべき問いだと考えます。

また、個々の団体で支援を「届かせる」ことを使命とするファンドレイザーが自問する問いでもあるかもしれません。

寄付市場を理解し、寄付市場に影響を与えようとする非営利組織や公共的な組織のマーケターにとっても大きな問いだと思います。

もちろん、寄付者ご本人にとっても、本当にその支援が意味のあるものだった、と感じられるためには、必要な問いです。

今回の寄付白書は、それを考える上で非常に具体的なデータを提供してくれるものと思います。


自分が抱いている、上記と対照的な問いは、

「『本当に困っている人』という誰も反論できない寄付先に寄付が集中するなかで、置き去りにされている寄付先、寄付の使い道があるとしたら、それは何だろうか。」

「なぜ、それは置き去りにされるのか。これからその傾向は加速するのか、しないのか」

「そのような置き去りにされがちな寄付先に、寄付を募るにはどうすべきか」

といったものです。

これらの問いの一部に対しては、自分の博士研究を通じてあと1年と少しの間に(暫定的なものであっても)ひとつの答えを出すことを目指します。


これまでの研究で言えるのは、寄付はやはり能動的な働きかけによって生じる、ということです。

それは必ずしも、個々人に「寄付をしてください」と声をかける、ということとは限りません。


『寄付白書2021』では、パートナーシップによって寄付の受け皿が立ち上がり、そこに多くの寄付が集まったことが描かれています。

多くの人が「どこに寄付をしたらいいんだろう・・・」と考えていた状況の中で、迅速に今はまだない受け皿を構想し、能動的に働きかけてそれをつくった人々がいたということは間違いないと考えており、それに呼応した多くの人々がいたということも事実です。

「寄付の受け皿」を運営することには平時でも一定のコストがかかりますが、それを負担できる企業や団体があった、そのような組織の内外に心ある人々がいた、ということは、日本社会にとって幸運だったと私は思います。


一方で、そのような受け皿を使いこなせる寄付先団体と、そうでない寄付先団体は、寄付の配分を受けられるかどうか、について相当に大きな違いが出てきたのではないかと想像します。

(使いこなす以前に、そもそも、資格として排除されるということもあり得ます)

そして、今はまだ一般的ではないかもしれませんが、「たくさんの寄付を集めた団体ほど、それをファンドレイジングに再投資することによってさらにたくさんの寄付を集めることができる」という状態も想定されます。


この「想像します」「あり得ます」「想定されます」という弱い文末は、さらなる調査研究が必要であることを示しているとお考えください。

寄付の配分の未来について、解くべき問いはまだ膨大に残されています。

知識・経験・年齢・立場などに関係なく、こうした問いに挑戦するために、研究という道を一緒に歩んでくれる人が増えてほしいと願う次第です。




研究ノート、5冊目が終了。1冊ずつ使い終わっていくのが楽しいです。

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