Sunday, 26 April 2020

大学・専門学校・病院等が寄付の募集をスタートする際の段取りとチェックリスト

COVID-19の影響で寄付募集に取り組むことになる人のために、本記事を執筆することにしました。
(最終更新:2022年10月20日)


私は大学に入った2000年からボランティアベースであしなが学生募金等の寄付募集キャンペーンに携わり、その後企業のマーケティング担当として勤務しながら、プロボノ(専門性を活かしたボランティア)などとしてNPOの寄付募集に従事し、その後国立大学での部局基金の募集に6年半ほど携わりました。現在は、大学院博士後期課程(経営科学専攻)で寄付募集について研究しています。

「寄付募集をスタートしたい」という他大学からの講演・研修を依頼されることも多く、短期兼業として対応させて頂いていました。

そのたびに、ゼロから寄付募集の体制を作ることの大変さを実感してきました。

しかし、ポイントを押さえて準備を行い、適切な募集活動を行うことで、多くの方々からあたたかい支援が得られ、集まった資金によって非常に大きな貢献が果たされることもあります。


COVID-19の影響を受けた非営利組織にとって寄付は重要な財源になりえる


現在、COVID-19の影響でアルバイト先がなくなる等の理由で、大学生が困窮しています。

複数の大学が、大学生の困窮に対応するため、またオンライン授業環境を整えるために学生に対して資金援助を行うとともに、寄付を募っています。

また、病院でも、多数の患者を受け入れて資金的に厳しい運営を強いられる場合、逆に患者数が減少したことで資金難に陥る場合が想定され、寄付募集を開始することも想定されます。

(寄付募集は、団体側が「始めよう!」と思ってスタートする場合もあれば、「寄付をしたい」というお申し出を頂くことでスタートする場合もあります。当然ながら後者の方が準備はバタバタしやすく、オペレーションの負荷がかかりやすいです)

民間の非営利組織(NPO法人など)ではもっとスピーディに、見切り発車ができることもあるかと思いますが、大学・専門学校・病院・福祉施設・美術館・博物館・図書館等では公的な組織としての説明責任を果たす必要があったり、リスク管理に対する配慮が必要であったりと、慎重な対応をしておくに越したことはないかと思います。

寄付募集をスタートするための段取りとチェックリスト


今後、より多くの組織が寄付を募る必要が出てくる場合に備えて、段取りとチェックリストを提供しようと思います。

日本では、まだ寄付募集の専門職である「ファンドレイザー」は少ないのが現状です。

総務や広報の部門の方が、ある日突然、寄付の担当もしなければならなくなるかもしれません。

そんな方のお役に立てば幸いです。

自分の経験とこれまでに学んだ書籍などから記憶に頼る形で記載していますので、順次思い出したことを追記していきたいと思います。

1)団体として、寄付を募集しはじめるという意思決定を行うための準備

寄付募集のスタートにあたっては、下記のような内容が網羅された企画書を理事会などに提出して寄付募集の開始可否を意思決定することになると思います。

これらはすべて1回の会議で決まることではなく、まず実施の方針が決まり、その後詳しい内容を付議するということもあり得ます。

寄付者のニーズと組織のニーズ(生徒の退学を予防したい、等)がマッチするよう、非営利組織マーケティングやファンドレイジングの書籍を読んで参考にしながら企画を立てられると良いと思います(が、そのような余裕がないことも多いと思います)。

決して、下記をすべて網羅するべき、というわけではありませんし、漏れている点もあるかもしれません。


<寄付募集そのものの企画>
・類似団体の事例、これまでにあった寄付や、寄付に関する問合せの情報
 (社会のニーズや、他の組織の状況を把握)

・寄付の使い道についての案と目標寄付額
 (団体内のニーズ。公的な資金ではできない○○に活用する、COVID-19の影響で必要になった○○に使うなど)

・寄付の受け入れ方法
 (寄付申込書提出後の銀行振込、オンライン決済、専用振込用紙など。
  クラウドファンディングも良いが経費がかかること、寄付者の個人情報が入らない場合があること等に留意)

・一口を何円以上にするか
 (オンライン決済フォームの仕様によって決まっていることもある)

・寄付者が受けられる税控除の情報

・寄付募集期間の案

・寄付を募る際の周知広報活動や告知先の案
 (メディアへの発表方法、同窓会への依頼など。概算費用もわかるとよい)

・寄付募集の趣意書の案
 (誰の名前で、どのような説明で社会に呼びかけるのか)

・組織内における寄付金の取扱規程の確認
 (もし存在しない場合は規程の整備)

<寄付を受けた後の対応>
・寄付の受け入れ決定の責任者または会議体、使い道の変更等の際の会議体はどれか

・寄付者への御礼の案
 (返礼品ありの場合、法的・倫理的に問題ない範囲になっているか等)

・寄付の活用状況の報告と寄付額の公表方法の案
 (ホームページで公表する、ニュースレターに掲載する、寄付者に郵送する等)


<組織体制>
・寄付者対応にあたる人員の確保見込みに関する情報
 (最低2名、専従が望ましいが兼務でスタートすることも多いのが現状)

・寄付の会計上の処理方法と経理部門の体制

・寄付に関する規程との整合性、必要な規程の整備状況
 (知らずに規程違反をしたり、恣意的な運営になることを避ける。プライバシーポリシーや文書管理規程も確認)

・非常に大きな額の寄付があった際に理事長や副理事長などがどのように御礼を行うかの案
 (電話で御礼する、感謝状に直筆でサインをする等)


<リスク管理>
・(特殊なケースや前例のないケースのみ)関連する通知や適法性に関するチェック状況

・物品寄付、有価証券や不動産の寄付を受け入れるかどうかのポリシー
 (物品寄付は検品や保管場所の確保などに手間がかかり、多く寄せられると対応に苦慮することもある)

・返金ポリシー
 (過誤入金の時は返金する、「気が変わった」では返金しない等を規程等に照らして決めておく)

・受け入れ辞退になるケース、トラブル時の相談先(顧問弁護士等)
 (利害関係者からの寄付、反社会的勢力と疑われるケースの対応などを予め決めておく)


2)実際に寄付を受け入れ始めることになった際の準備

組織としての決裁が下りた後も、実際に寄付を受け入れ始めるまでには、多くの準備を要します。

寄付検討者に対して良い対応ができず、「せっかく寄付しようと思ったのに、残念だ」と言われてしまうことのないようにしたいものです。

・寄付の申込書、感謝状、受領証などのテンプレート準備
 (他の部門で受け入れをしている場合は参考にさせてもらう)

・寄付の窓口部署(広報・総務などになることが多い)と経理部署での打ち合わせ
 -入金確認の方法と頻度
 -受領証の写しはどこの部署がどう保管するか
 -受領証はどこの部署からどう送るか、同封する書類は 等

・寄付呼びかけ文の作成

・寄付受け入れに必要なチャネルの確認、追加
 (寄付受け入れ用の銀行口座の確認、オンライン決済システムの契約など)

・寄付者の情報を保管するデータベースの検討、確保

・寄付募集ページの原稿準備、寄付募集開始のお知らせ文案の作成

・寄付募集に使うチラシの作成、印刷

・よくある質問集(FAQ)の準備、担当職員と共有
 (寄付をしたいと電話があったらどう回答するか、税控除について聞かれたら、等を整理)

・寄付に関するお問い合わせに対応する職員との打ち合わせ・研修
 (すでに寄付を募っている他の部局や組織から人を招いて打ち合わせや質問をする等)

・トラブル時に相談する顧問弁護士等へのあいさつ(電話やメール等でも)

3)寄付募集活動を充実させるための取り組み

・寄付者や寄付検討者の問い合わせに確実・迅速に対応できるよう、担当者を増員する

・NPOなどで寄付募集の経験のある人を採用する、寄付募集のコンサルタントに支援を依頼する

・日本ファンドレイジング協会などの研修を受けて自分たちの戦略を見直す

・マーケティング戦略を再度検討してみる

・遺贈寄付、相続財産の寄付について学習し、パンフレット等で受け入れを拡大する

・寄付の周知広報から受け入れ、寄付への御礼までのプロセスでボトルネックになっている箇所がどこかを検討して見直す

・寄付者にとっての利便性を高めるために、寄付受け入れチャネルを追加する(Amazon Pay等)


よくある失敗や苦境

・十分な人員が手当てされず、寄付検討者に適切な対応ができずクレームになる

・大きな額の寄付を振り込んだにも関わらず、入金確認連絡がないため寄付者が不安になる

・反社会的勢力や、見返りを求めての利害関係者からの寄付など、適切でない寄付を受け入れてしまう

・寄付の活用に関する意思決定フローが整備されておらず、寄付が適切に利用されない

・十分な寄付額が集まったにも関わらず寄付募集が継続され、寄付金が余ってしまう

・寄付募集の専門性を持つ人材を雇用せず、寄付が十分に集まらない


これらは、発生しないに越したことはない失敗や苦境です。

ぜひ、寄付募集に早くから取り組んでいる他の組織を参考に、先人と同じ轍を踏まないようにしていただきたいものです。

取り急ぎ、思いついたことを書き連ねてみました。

皆様の寄付募集活動が多くの善意を集め、大変な思いをしている人々の力になることを心から祈っております!

(寄付研究ノートも、3冊目になりました!)




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