Monday, 18 July 2022

2022年7月23日「寄付と利他行動の未来」参考文献リスト

いつも、学会発表などの際にはスライドで引用した文献についてブログにアップするようにしています。

7月23日に開催予定の、

京都大学人と社会の未来研究院 社会的共通資本と未来寄附研究部門創設記念シンポジウム「Beyond Capitalism ~拡張する社会的共通資本~」

では、「寄附と利他行動の未来」と題してお話をさせていただく予定でして、そのスライドが完成したので、参考文献をアップします。

当日のオンライン視聴は無料で、7月20日(水)17時まで受け付けているようですので、よければぜひお申込みください。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/event/2022-07-01-0

今回の私からの発表のキーワードとなるのは、

・寄付文化と寄付市場

・科学的なファンドレイジング

・Philanthropy

・条件つき協力(Conditional cooperation)

・マーケティングと選好の内生性

などなどです。

当日の議論がたいへん楽しみです。


<参考文献>

Brest, P., & Wolfson, M. (2020). How to Think about Risk in Philanthropy. Stanford Social Innovation Review, 18(1), 57–58. https://search.proquest.com/magazines/how-think-about-risk-philanthropy/docview/2316724948/se-2?accountid=11929

Brown, P. H., & Minty, J. H. (2008). Media Coverage and Charitable Giving after the 2004 Tsunami. Southern Economic Journal, 75(1), 9–25. https://search.proquest.com/docview/212146275?accountid=11929

Chen, Q., Wang, C., & Wang, Y. (2009). Deformed Zipf’s law in personal donation. EPL (Europhysics Letters), 88(3), 38001. https://doi.org/10.1209/0295-5075/88/38001

Fischbacher, U., Gächter, S., & Fehr, E. (2001). Are people conditionally cooperative? Evidence from a public goods experiment. Economics Letters, 71(3), 397–404.

Frumkin, P. (2008). Strategic Giving: The Art and Science of Philanthropy. University of Chicago Press. https://books.google.co.jp/books?id=Gv9ejrvJf7AC

Ma, J., Ebeid, I. A., de Wit, A., Xu, M., Yang, Y., Bekkers, R., & Wiepking, P. (2021). Computational Social Science for Nonprofit Studies: Developing a Toolbox and Knowledge Base for the Field. VOLUNTAS: International Journal of Voluntary and Nonprofit Organizations. https://doi.org/10.1007/s11266-021-00414-x

Ostrom, E. (2000). Collective action and the evolution of social norms. Journal of Economic Perspectives, 14(3), 137–158.

Ostrower, F. (1995). Why the wealthy give: The culture of elite philanthropy. Princeton University Press.

Watanabe, F. (2022). The Benefits of Separating Charitable and Philanthropic Giving in Nonprofit Marketing: Concept Analyses and Proposal of Operational Definitions. https://janpora.org/dparchive/pdf/20220624J.pdf

Weisbrod, B. A. (1975). Toward a Theory of the Voluntary Nonprofit Sector in a Three-sector Economy. In E. S. Phelps (Ed.), Altruism, Morality, and Economic Theory. Russell Sage Foundation.

Wright, K. (2001). Generosity vs. altruism: Philanthropy and charity in the United States and United Kingdom. Voluntas, 12(4), 399–416. https://doi.org/10.1023/A:1013974700175

Yano, M. (2009). The Foundation of Market Quality Economics. The Japanese Economic Review, 60(1), 1–32. https://doi.org/10.1111/j.1468-5876.2008.00471.x

宇沢弘文. (2015). 宇沢弘文の経済学. 日本経済新聞出版社.

寄付白書発行研究会. (2021). 寄付白書2021 (日本ファンドレイジング協会 (ed.)). 日本ファンドレイジング協会.

小島寛之. (2018). 宇沢弘文の数学. 青土社. https://books.google.co.jp/books?id=rKkXvAEACAAJ

小野善康. (1996). 不況定常状態とインフレー供給曲線. 経済研究, 47(1). http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/19877/keizaikenkyu04701016.pdf

広井良典, & 福田幸二. (2021). AIを活用した政策提言と分散型社会の構想. 農林業問題研究, 57(1), 8–14. https://doi.org/10.7310/arfe.57.8

 

関係ないのですが、京都は夏だな、という感じの日々です。

 

Sunday, 17 July 2022

『13歳からの経営の教科書』を読んで考えた、自学自習できない子ども・若者のこと

 『13歳からの経営の教科書』という本を読みました。

大変久しぶりなのですが、これは多くの人に読んでほしい、と思う本でしたので紹介したいと思います。


本の中身を書いてはいけない気がするので自制しておきますが、このブログを読んでおられるような、非営利組織に関わる方々にとっても、読んで全く損はない内容になっています。

今、本書の一部が試し読みできるので、ぜひご覧いただければと思います。

また、「あとがき」も公開されているので、ご一読ください。
著者のお父様は経営者であられたとのことですが、これ以上の親孝行はないだろう、と思うような名文です。

自分自身も田舎の母子家庭出身なのでまあまあ大変な人生前半を過ごしてきたと思うのですが、私が2000年代に約1年ずつ住んでいたブラジルやウガンダでは、小さい子どもや若者たちが何とか(親の力を借りずに、あるいは時には弟や妹を養いながら)サバイバルしなければならない、という状況をよく目にしました。

日本国内においても、こんな年齢の子どもがこんな苦境に陥るというのはどう考えてもおかしい、というシーンに何度も遭遇しました。主に、あしなが育英会での様々な活動での体験です。

そのような時、こんなテキストがあったならどれだけ良かっただろうか、と思います。

「食べ物にも困るような状況のなかで、経営についての教科書があっても仕方ないだろう」

そんなことを仰る方もいると思います。

たしかに、衣食住にも事欠くような状況にあっては、無償で提供されるランチや医薬品などは、極めて重要です。

学校での授業に加えて様々な労働をしながら、その日その日を何とか暮らしている子どもに「これからは誰もが経営ができるようになる必要があるのだから、経営を勉強しよう!」と言ってもかなり無理があります。

自学自習できない子ども・若者にこそ


ですから、約20年前にブラジルやウガンダにいた頃、こんなテキストがあったとして、それを直接彼ら彼女らに見せてあげたかった、とは思いません。

もしあの頃の自分がこのテキストをしっかり読んでいて、それを実践できていたら、きっと「経営」とはどういうことかを少しでも伝えられたのではないだろうか、と思うのです。

『13歳からの経営の教科書』を読んで、すくすくと経営を自学自習して実践していけるような子ども・若者は、おそらく相当に恵まれた環境の人だと思います。

ほとんどの人はそうではありません。

家庭環境が厳しい子ども・若者ほど、そんなアクロバティックな自学自習はできません。

だからこそ、回りの大人が自分の人生や活動や会社を「経営」し、子ども・若者に見せてあげたり、話してあげる必要があると思います。

私自身が高校を卒業するまで地元で暮らしていたとき、そもそも周りで知り合う大人のうち、「経営」の話をしてくれるような人はほとんどいませんでした。

そもそも、ビジネスをしている人が少なかったのです。

学校の教師か、市役所勤務か、農協勤務か、「子どもには継がせたくない」と言いながら農家をしている、という大人が多かったように記憶しています。

人口は減る一方、新たな雇用も生まれない。そんな閉塞した感覚に耐え切れずに、高校を卒業して都市に出たのでした。


ですから、私はこのテキストを多くの人に読んでほしいと思います。

特に、厳しい環境にいる子どもや若者と接する人々に読んでほしいです。

公立学校の先生。
通信制高校の先生。
児童養護施設の先生。
国際協力NGOの職員。
障がい児の療育施設の先生。
不登校の子供を支援するNPOの職員。
自治体のヤングケアラー担当の職員。

自分も時折、厳しい環境にいる子どもや若者と接しますので、経営を教えるための教科書として、この本を大切に活用させていただこうと思います。

加えて、日本の社長さんのうち女性はわずか14%あまりです。
ですから、

女の子を持つお父さん・お母さん
女子中学校・女子高校などの先生方

にも、読んでいただきたい本です。

非営利組織の「経営」を考える


こうして挙げていくと、「厳しい環境にいる子どもや若者と接する人々」は、だいたい非営利組織に所属していることがわかります。

非営利組織には、「経営」は不要でしょうか?

まさかそんなことはありません。

非営利組織やソーシャルビジネスに携わる人も、この本から学ぶことは多いと思います。

加えて、子どもたちの多くはやがて(非営利組織ではなく)民間企業で働くようになるわけですから、そのような子どもに接する人々が(民間企業を含む)経営について知っておき、それを子どもに伝えられることはとても重要だと思います。

とはいえ、多くの非営利組織の職員の方々、たとえば公立学校の先生にとっては、

「そんな時間がどこにあるのか?」

という話だと思います。

いまの仕事だけで手一杯で、そんな余裕は微塵もないという団体が多いと思います。

そのような組織にこそ、寄付の募集の方法論であるファンドレイジング(特に、経験やカンに依存したものではなく科学的なファンドレイジング)を習得をいただいて、「ゆとり」をつくりだしてほしいと思います。

(現実には、ファンドレイジングに時間や労力を投資しない、という組織も多くあります。

そのような組織は、行動に移すだけの危機感を抱いていないのか、リスクを恐れているか、その両方か、あるいは他の理由があるのか、それは私自身が研究で少しずつ明らかにしていきたいところです)

ファンドレイジングには、非営利組織の「経営」の自由度を大きく高める効果があります。

願わくば、
このブログ記事が1人でも多くの大人に届き、
『13歳からの経営の教科書』が1冊でも多く売れて、
その人が「経営」を実践する姿や話が
厳しい環境にある若者や子どもにチャンスを与える、
という状況が生まれてほしいと、強く思います。


※本ブログでは、Amazonへのリンク経由で購入が発生すると、数円~数十円くらいの少額のポイントがブログ著者のアカウントに入るようになっています。
ブログ読者の方々がどんな書籍に関心を持っているかを把握することで、よりニーズに沿った発信に務めていますので、ご了解ください。

Saturday, 9 July 2022

シンポジウム「Beyond Capitalism ~拡張する社会的共通資本~」について考えていること

京都大学の「人と社会の未来研究院」に、「社会的共通資本と未来寄附研究部門」という研究部門ができました。

その創設記念シンポジウム「Beyond Capitalism ~拡張する社会的共通資本~」が、2022年7月23日(土)に開催されます。オンラインで、どなたでも申し込めば無料で視聴できます。

私も少しだけ登壇させていただき、「寄附と利他行動の未来」と題してお話をする予定です。

申込締切は、7月20日(水)17時とのこと。

下記ページから申し込みができます。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/event/2022-07-01-0

さて、今回の記事では、このシンポジウムの議論のための自分の予習内容を少し共有させていただきます。

それによって、当日参加される人が、よりおもしろく議論を聞いていただけるようになったら幸いです。


社会的共通資本とは?

社会的共通資本の概念を提唱された宇沢弘文先生の『宇沢弘文の経済学 社会的共通資本の論理』によると、社会的共通資本とは、

「1つの国ないし特定の地域が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境、社会的装置を意味する」(p45)

とされています。

社会的共通資本には、

「土地をはじめとする、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然資本」

「道路、上・下水道、公共的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー」

そして

「教育、医療、金融、財政制度などという制度資本」(p47)

があります。

いずれも、私たちの生活にとって、非常に重要な存在ですよね。


「社会的共通資本から生み出されるサービスは、無料またはきわめて低廉な価格によって供給されるのが普通」(p68)です。

その意味で、「社会的共通資本から生み出されるサービスは、経済学にいう『公共財』(public goods)の一種と考えられる」(p68)とのことです。


公共財の供給における「政府の失敗」

ここで、議論を非営利組織論に移していこうと思います。『はじめてのNPO論』によると、

「限られた財源のもとで政府が(準)公共財を供給しようとするとき、(中略)政府が供給する(準)公共財は、投票者の過半数が望むものに限られてしまい、それ以外の人が望むものがまったく供給されないか、過少にしか供給されないという『政府の失敗』が生じてしまいます。」(p44-45)

つまり、政府が財源を支出して管理する社会的共通資本からのサービスについて、ある人々は自分のニーズに沿ったサービスが十分に得られない、という状況が起こり得るわけです。

そんなときに人々はどうするか。

「家計が欲する(準)公共財を政府が供給しない場合、または政府が供給してもその内容(質)などに満足できない場合、同様の選好をもつ人たちが組織をつくって自ら供給することがあります。この組織がNPOです(Weisbrod[1975])。」(p45)

つまり、NPOをつくるというわけです。

通常、税金の使い道を政治的なプロセスによって決定することで、社会的共通資本の維持や管理に、それぞれどれくらいのリソース(人やお金)を投入するかが決まります。

しかし、そのプロセスではカバーできないニーズに応えたい場合や、そもそも何かの公共財が必要と分かっていても政治的な合意が形成できない場合があります。

そんな場合には、小回りの利くNPOが政府からの助成や寄付金などで公共財を提供する、と言われています。


寄付を、緊急的な人道ニーズに応えるための寄付(Charity)と、将来のより良い社会のための投資としての寄付(Philanthropy)に分けて考える(Frumkin, 2008)と、Philanthropy的な寄付は社会的共通資本を維持・管理するための財源として期待できるのではないだろうか、というのが私の考えていることです。

CharityとPhilanthropyを分けて考えることにメリットがあるのか、については最近公開いただいた日本NPO学会のディスカッションペーパーで詳しく論じていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください(英語です)。

https://janpora.org/dparchive/pdf/20220624J.pdf


さて、ここからは、今回のシンポジウムで私が楽しみにしている各講演をされる先生方について私の認識を記していきたいと思います。


基調講演で紹介される「協生農法」

基調講演をされる舩橋真俊さんは、協生農法という革新的な技術を研究されています。

協生農法については、下記の記事が一般の人や私のような専門外の者にとってわかりやすかったです。

https://ideasforgood.jp/2021/06/23/syneco-culture/

私はこちらの協生農法実践マニュアルを最初に読んだのですが、衝撃を受けました。

拡張(Augumented)生態系という概念についてもお話をされるとのこと。

当日が、大変楽しみです。

なお、下記の動画はブルキナファソでのプロジェクトが描かれており、かなりインパクトがあります。わずか1年で、砂漠が密林になっています

私は学生時代にウガンダに滞在していたので、非常に強い衝撃を受けました。


砂漠に住む飢えた人に食料や水を供給するために行う寄付がCharityとして分類できるでしょう。

一方、砂漠における協生農法を寄付で支援する場合、それはPhilanthropyだと言えます。

そして、これはその地域に必要な(社会的共通資本としての)自然資本を整備する活動に他ならないと言えるでしょう。


宇沢弘文先生と小島寛之先生のこと

私にとってはお二方とも書籍や論文を通じてしか存じ上げないのですが、社会的共通資本の理論を提唱された宇沢弘文先生についての『宇沢弘文の数学』などの書籍がある小島先生が今回のシンポジウムに登壇され、「経済学からみる社会的共通資本」と題して講演されます。


この『宇沢弘文の数学』という本は、本当に刺激的であるだけでなく、感動する本です。

小島先生が数学を学び、一度社会人になられ、その後市民講座のゼミナールによって宇沢先生と出会い、経済学にほれ込んで研究者となったプロセスは、特に私のように社会人大学院生をしている者にとっては非常に励まされる内容でした。

第6章では「二一世紀の宇沢理論―小野理論・帰納的ゲーム理論・選好の内生化」と題して、宇沢先生の理論の進化を展望されています。

お金の保有そのものから得る効用

小野理論は小野善康先生の理論のことを指しており、

「お金などの資産保有にも効用がある」(p176)

と仮定していること、また

「その追加的な効用が『非飽和』である、という条件」(p179)

が特徴的だといいます。これを小島先生は、わかりやすく

「日常的表現で言えば、『消費には飽きがくるが、カネには飽きがこない』ということだ」(p179)

と記述されていますが、これは寄付の研究を行う者としては非常に興味深い話です。

資産保有による効用と、それを寄付によって手放して社会貢献することで得られる効用。

この2つを比べたときに、後者が大きくなるのはどのような条件下においてなのでしょうか?

興味は尽きません。


選好の内生性とマーケティング

また、もう1つ宇沢理論の進化の方向性として提示されている「選好の内生化」も、見逃せない点です。

「『選好の内生化』というのは、人々の認識や嗜好というものが、個人の内面に最初から存在し、確固として変化しないものではなく、社会的に醸成され変容するものとする考え方」(p204)だといいます。

経済モデルにおいて、選好は外生的に与えられるものとされていることが多いわけですが、マーケティング研究においては違います。

そもそもマーケティングは、消費者の選好を変化させることを目的としてなされる行為だと言えます。

マーケティングは、現代の大量生産・大量消費社会を形成したという功罪がある方法論であり、宇沢先生がご存命ならば眉を顰められるかもしれませんが、私は小島先生の書籍を読んで、社会的共通資本の研究にマーケティング研究者が関わることの可能性を見出したところです。

(ちなみに小島先生の『使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理』もおすすめです)


広井良典先生とポストコロナ社会

次に登壇される広井先生は、『コミュニティを問い直す』などの書籍で存じ上げていた先生です。

最近では、日立コンサルティングとの共同研究で、AIを活用して2050年に向けて2万通りのシミュレーションを行った研究が衝撃的なものでした。

http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/20210226_hiroi/

これを踏まえると、日本社会の未来の持続可能性にとっては、「都市・地方共存シナリオ」が最も望ましいようです。

そこに至るには、「働き方や人生のデザインを含む包括的な意味での『分散型』社会に向けた対応」が重要になるとのこと。

http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/02/439bd40da9a48fd5f27df24f5c55bb4e.pdf

この研究によると、2024年までに、人口の「集中緩和・人口改善」に向かうための政策を実行するべきとのことです。

広井先生は「ポスト資本主義のビジョン」と題して講演されるため、上記研究に触れられるかどうかは分かりませんが、いずれにせよお話をお伺いするのが非常に楽しみです。


寄付と利他行動の未来

以上をふまえると、

税金の使い道を、東京のごく一部の人々で中央集権的に決めて、社会的共通資本を整備する

という考え方だけではなく、

各自治体やコミュニティが分散的に資金を確保して、社会的共通資本を整備する

ということが重要なのでは、と思う次第です。

『寄付白書2021』に執筆協力させていただいた際に、新型コロナウイルス感染症の流行下で、1000万円以上・1億円以上の寄付が寄せられたという報道が多く見られた非営利組織は、

「自治体」

であったことが分かりました。

https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/GJ2021_infographic.pdf

日本の個人金融資産は2000兆円あります。

日本の寄付市場は現在のところ1.2兆円/年(名目GDP比0.23%)という規模ですが、もしも英国並みの名目GDP比(0.47%)になるならば、これは倍増してもおかしくありません。

米国並みになるとすれば、6~7倍くらいの成長余地があるということになります。

日本の税収が67兆円/年だということを考えると、無視できない規模です。


当日は、こうした寄付の重要性を踏まえて、これからの社会にとって寄付が果たすべき役割や、利他行動をどう考えていくべきなのか、を考えたいと思います。


気づけば、本ブログ史上、最も長い記事になったかもしれません…。

ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございました。


7/23のシンポジウム、下記ページから申し込みができます。ぜひご覧ください。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/event/2022-07-01-0

Monday, 4 July 2022

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版vol.2出版記念イベントDay3「寄付のオモテとウラについて語ろう」

今度、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版(SSIR-J)のイベントにパネリストのひとりとして登壇させていただくことになりました。

Day3 2022年7月14日(木)19:00-20:30

https://ssir-j-vol2.peatix.com/

SSIR-Jのレイモンド・ウォングさんがファシリテートくださり、日本ファンドレイジング協会の大石さん、WWFジャパンの外岡さんと3人で話すということで、大変楽しみにしています。


お題は、「寄付のオモテとウラについて語ろう」


オモテとウラ、とは寄付の場合、何でしょうか。


私にとっては、4つくらい「オモテ」(よく社会で観察される面)と「ウラ」(あまり知られていない面)があるかなと思いました。


・寄付をする側と、受ける側

 寄付をする側(寄付者や寄付行動)の研究は多く、受ける側(ファンドレイザーやファンドレイジング活動)についての研究は少ない印象があります。私は主に後者、ウラの方に力点を置いて研究をしています。


・寄付募集についての実務と、研究

 寄付募集については実務家の方々のノウハウが広く流通している反面、学術研究に基づく知見はまだあまり流通していないように思います。なので、主に後者、ウラの方について情報発信をしようと考えてきました。


・Charityの寄付文化と、Philanthopyの寄付文化

 そして日本では、災害時や人道的な危機のときに盛り上がるCharity(緊急的な人道ニーズへの支援)の寄付文化はあるとしても、長期的なビジョン達成のために様々なアプローチで取り組む組織に対するPhilanthopy(より良い社会を目指すための多様な支援)の寄付文化はまだ発展途上だと考えています。私は勤務先もどちらかといえば後者、関心としても後者なので、ウラの方についてよく考えています。


・寄付の望ましい面と、望ましくない面

 寄付も他の様々な社会的行為と同様に、望ましい面があればそうでない面もあります。後者については、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版vol.2(下記)の「寄付金のダークサイドについて語ろう」という記事で議論されていますので、よければぜひご覧ください。



ちなみに、SSIR-Jの編集長の中嶋さんという方は、『ワーク・シフト』という本を手掛けられた方です。

私もそうですが、「読んだ!」という方もおられるのではないでしょうか。2012年発行の書籍ですが、その当時に描かれた方向に社会が変わってきていることに、多くの人が驚くと思います。


このような先見の明に満ちた書籍が存在することを知ると、やっぱりおもしろいですよね。

よく社会を観察し、研究していくことで、私たちもより精度の高い未来予測をしたり、その未来に対して何らかの影響を与えることができる、という希望を持てるように思います。

今回のイベントが、皆で「寄付の未来」を考えるきっかけになったらパネリストとしては望外の喜びです。

関係ないですが鴨川です。