Sunday, 20 February 2022

FRJ2022「数字で見る日本寄付市場の過去・現在・未来」の概要と,文献リスト

(2022年2月21日追記:当日のお話の概要を記載し,タイトルを少し変更しました)

FRJ2022(ファンドレイジング・ジャパン2022)でのセッション「数字で見る 日本寄付市場の過去・現在・未来~事例紹介:iPS財団のファンドレイジングを支える3つの考え方~」(2022年2月19日)にご参加くださった皆様,本当にありがとうございました.

当日は,前半がエニシフルコンサルティングさんのGOEN寄付データからの様々な情報,後半が事例としての私の勤務先のファンドレイジング活動の話でした.

このブログ記事では,私のお話(後半部分)の概要をご説明します.

私からは,これまでのファンドレイジング活動で自分が考えていた3つのポイントとして,

・先行研究を読む

・市場志向で考える

・制約を観察する

といった,少し抽象度の高い(その代わりおそらくは様々な組織に当てはまるであろう)話をさせていただきました.まとめとしては,
・事例(質的データ)
・寄付白書等の量的データ
・先行研究からの理論
・現場の状態の観察

を組み合わせて仮説(こういう行動をしたらこういう結果が出る)をつくり,
その行動をしてみて効果をみる

というような話をさせていただきました.

今こうして振り返ると,「そりゃ当たり前だろう・・・」「口で言うのは簡単だけど・・・」というような内容になっていてちょっと反省するのですが,2000年から寄付募集活動に携わっていて,毎年前進したいと思ってもがいていると,やはり凡事徹底に落ち着いてしまうのかなとも思います.


当日は,200人以上の方々にご参加いただき,大変ありがたく思いました.お声がけくださったエニシフルコンサルティングさんにも深く感謝申し上げます.

下記が,当日ご紹介していた論文や書籍のリストです.基本的には,研究を行うなかで出会った文献ですが,いずれも実務にとって非常に大きな示唆がありました.

これらの文献との出会いが,ファンドレイジングの研究や実務に取り組む方にとって,何かのヒントになれば幸いです.

各文献の詳細情報は末尾に記載するとして,さらっと紹介しようと思います.


1)Market orientation in the top 200 British charity organizations and its impact on their performance

イギリスの非営利組織が,どれくらい「市場志向」なのかを測定した研究です.直近5年くらいで,市場志向の団体が増えてきたとのこと.市場志向は分野によって強い弱いということはなかったそうですが,大きくて部門が多い団体よりは,小規模な団体が寄付市場志向であるということが観察されました.寄付市場志向は,実際の効果が出るまで時間がかかるようです.


2)Identity motives in charitable giving: Explanations for charity preferences from a global donor survey

117か国の1,849人が,どのように寄付先を選んでおり,そこにアイデンティティがどう関わっているかを調べた研究です.アイデンティティが寄付行動に影響するという研究は非常に多いのですが,日本でもそうなのか?というのはちょっと疑問でした.その点,このような国際的な調査は説得力があります.


3)Strategic Giving: The Art and Science of Philanthropy

この本は,主に米国の財団や篤志家など,寄付を行う側も意識して書かれた書籍で,寄付をするにあたって,より良い意思決定をするための手がかりが豊富に含まれています.CharityとPhilanthropyを分けて考える考え方があるというのもこの書籍に書かれていますが,本当はもっと紹介したい有意義な内容があります.

(Kindleで電子書籍版が出ていましたのでリンクを載せておきます)

https://amzn.to/3sY07j0


4)Theory of constraints

製造業の生産性改善に使われてきたTOC(制約理論)を紹介する論文です.TOCについては『ザ・ゴール』のマンガ版(下記)などがわかりやすいのでおすすめです.

https://amzn.to/3h3TmXq


5)Emerging philanthropy markets

マクロ経済やインフラの指標に基づいて,どの国に寄付市場の拡大余力があるかを調べるとともに,世界価値観調査の結果から,寄付に関する文化を予測しています.資本主義とプロテスタントの国は民間フィランソロピーが盛んであり,その次の候補は(日本を含む)儒教文化圏と資本主義経済だとしています.


6)Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors

マイケル・ポーターの古典的著作ですが,断片化市場について非常に切れ味の鋭い議論をしていて,ご紹介したいと考えました.


7)Look to Others Before You Leap: A Systematic Literature Review of Social Information Effects on Donation Amounts

寄付の金額に対するSocial information effect(他の人の行動についての情報に影響を受けること)についてのシステマティック・レビュー論文です.ポジティブな効果,ネガティブな効果の両方について,媒介要因を挙げて「なぜそうなるのか?」を説明してくれており,大変参考になりました.


Balabanis, G., Stables, R. E., & Phillips, H. C. (1997). Market orientation in the top 200 British charity organizations and its impact on their performance. European Journal of Marketing, 31(8), 583–603. https://doi.org/10.1108/03090569710176592

Chapman, C. M., Masser, B. M., & Louis, W. R. (2020). Identity motives in charitable giving: Explanations for charity preferences from a global donor survey. Psychology & Marketing, 1(15). https://doi.org/10.1002/mar.21362

Frumkin, P. (2008). Strategic Giving: The Art and Science of Philanthropy. University of Chicago Press. https://books.google.co.jp/books?id=Gv9ejrvJf7AC

Goldratt, E. M. (1990). Theory of constraints. North River Croton-on-Hudson.

Michon, R., & Tandon, A. (2012). Emerging philanthropy markets. International Journal of Nonprofit and Voluntary Sector Marketing, 17(September), 352–362. https://doi.org/10.1002/nvsm

Porter, M. E. (1980). Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors. Free Press. https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=195

van Teunenbroek, C., Bekkers, R., & Beersma, B. (2020). Look to Others Before You Leap: A Systematic Literature Review of Social Information Effects on Donation Amounts. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 49(1), 53–73. https://doi.org/10.1177/0899764019869537


<おしらせ>

おもしろいと思った論文はTwitterでも紹介しておりますので,ご参考ください.

https://twitter.com/fwatanabe


全然関係がないのですが、けん玉っていろんな遊び方があるんですね。子どもがハマっていて、最近よく遊んでいます。