Friday, 3 May 2019

寄付の類型

寄付は、様々な視点で類型化することができます。

ⅰ)寄付者の種別による分類

寄付者は、個人か法人かによって分類することが可能であり、この分類を細かく分けていくこともできます。
米国のファンドレイジングに関する資料では、個人、企業、財団、信託など寄付者を分類し、それぞれについて獲得戦略を立てる考え方が一般的となっています。

ⅱ)寄付される資産の種類による分類

寄付という言葉に伴って一番よく想起されるのは金銭の寄付でしょう。
しかし、物品の寄付、有価証券の寄付、不動産の寄付など、寄付される資産の種類によって寄付を分類することも可能です。

特に、評価性資産と呼ばれる有価証券や不動産などの寄付は、米国において高等教育への寄付増大に寄与したとみなされており、日本の寄付拡大においても重要であるという指摘がなされています。
福井文威著『米国高等教育の拡大する個人寄付』

また、日本赤十字では、暗号通貨の1つであるビットコインの寄付を受け付けています。

労力の寄付は、通常「ボランティア」と呼ばれます。

また、弁護士などの専門家がサービスを寄付する場合、「プロボノ」と呼ばれることも増えています。

医療の文脈では、英語で移植用臓器の提供は”donation”、献血は”blood donation”と呼ばれていますが、日本ではこうした行為が「寄付」という言葉で語られることはほぼありません。(なぜなのでしょう・・・)

しかし最近では、病気等で髪の毛が抜けてしまった子ども等のためのウィッグ用の髪の毛の寄付を「ヘア・ドネーション」と呼ぶケースもあります。
 

ⅲ)寄付の方法による分類

現金の手渡しによる寄付、銀行振り込みによる寄付、クレジットカード決済による寄付といったように、寄付の入金方法による分類があり得ます。

また、寄付の募集方法による分類として、

  • 街頭募金
  • オンライン寄付(インターネット上で募集される寄付)
  • 毎月寄付(クレジットカードや自動引落による寄付)
  • 寄付つき商品(コーズリレーテッドマーケティング)
  • 遺贈寄付(遺言書による寄付)
  • ポイント寄付(クレジットカードのポイント等による寄付)
  • クリック寄付(クリック数に応じてスポンサー企業が行う寄付)
  • マッチングギフト

等があります。

米国においては、Planned Gift、Pledge、Outright Giftという分類も見られます(末尾の参考文献を参照)。

Planned GiftはPlanned Givingとも呼ばれ、遺贈、信託による寄付、契約を締結しての寄付などの、事前の交渉や協議を伴う計画的な寄付であるとされています。
通常、Planned Giftは税控除についても十分に検討されるため、寄付金控除のメリットを寄付者が享受できることが想定されています。

また、Annual Gift(毎年の寄付)、Monthly Gift(毎月の寄付)など、振込のタイミングによって分類されることもあります。こうした継続的な寄付は、非営利組織にとって将来の寄付額の予測を立てやすい利点があります。

ⅳ)寄付額による分類

米国のファンドレイジングに関する書籍では、最上位の金額の寄付をPrincipal Gift、$10,000から$100,000程度の高額寄付をMajor Giftと呼ぶこともあります。

少額の寄付は、日本では小口寄付と呼ばれています。

ただしこれは寄付を受ける側にとっての論理でしかなく、可処分所得や寄付可能な資産額が寄付者によって異なるため、$100の寄付を高額寄付と感じる人もいれば、$100,000の寄付を高額だと感じない人もいます。

ⅴ)寄付の目的からの分類

その寄付が組織全体の運営に使われる場合(Unrestricted Gift)、特定のプロジェクトやキャンペーンの支援に使われる場合(Program or Project support)、大学基金(endowment)や建物等の資産に組み入れられる場合(Capital Gift)など、寄付の目的によって分類されることがあります。

日本の大学では、大学全体への寄付ではない、特定の学部や研究所への寄付を「特定基金」で受け入れたり、「特定寄附金」として扱うことがあります。これは上記のProgram or Project supportに対応すると言えます。

ⅵ)寄付の動機による分類


寄付の動機としては、行動経済学の観点から、

  • 純粋な利他性に基づく寄付
  • 暖かな光(寄付行為から寄付者が得るポジティブな感情)に基づく寄付
  • 互恵性に基づく寄付
  • 同調性による寄付
という4つが指摘されています
当然ながら、寄付者はこの4つの動機のうち複数に基づいて寄付を行うことがあり得るわけですが、こうした理論的な背景のある分類は、寄付をより深く理解するために非常に大きな助けになります。

参考文献
 

寄付の構造ー寄付者、寄付の受け手、寄付の受益者

ファンドレイジング活動を行う上で知っておきたいのが、「寄付の構造」です。


寄付という行為が成立するためには、寄付者寄付の受け手が別個に存在する必要があります(つまり、自分から自分へ寄付する、という行為は成り立たない)。

一方、寄付の受け手と寄付の受益者が別個に存在するかどうかについては、法的には2つのパターンがあるとされています。つまり、寄付の受け手=寄付の受益者、というパターン(贈与型)と、寄付の受け手≠寄付の受益者(信託型)というパターンがあり得るのです。


贈与型の寄付

寄付の受け手が寄付の受益者である場合は「贈与型」ともいうべき寄付であり、寄付の目的が、寄付の受け手に利益を与える点にある場合を指します。

こちらは、贈与契約または条件付き贈与契約に近い法的性格を持つことになります。寄付の使途が指定されている場合は、負担付贈与であるという解釈も可能であるという説があります。

信託型の寄付

寄付の受け手と別個に受益者が存在する場合は「信託型」ともいうべき寄付であり、寄付の目的が、第三者(受益者)に利益を与えることである場合を指します。

この「信託型」に該当する寄付は、信託に近い法的性格を持つことになります。

Cambridge Dictionaryによれば、Donationは”money or goods that are given to help a person or organization, or the act of giving them”と定義されており、贈与型が人への寄付、信託型が組織への寄付、と整理できるかもしれません。


贈与とも信託とも言い難い寄付

日本における寄付の統計資料である『寄付白書』などでは寄付の一部に含まれている「賽銭」は、寄付の受け手である宗教法人に利益を与えるための贈与とも、第三者のための信託とも解釈しがたいように思われます。

強いて言うならば自己の利益を願っての寄付のように思われるので、自己目的型寄付とでも言うべきなのでしょうか。

一般に、「寄付」と呼ばれる行為すべてを法的観点から厳密に定義できるとは限らないという側面もあります。

この意味で、法的な意味での寄付は必ずしも厳密に定義されておらず、自主的公益信託ともいうべきであるという金井憲一郎先生の主張(下記論文を参照)は、寄付に関する法整備が必要であるという指摘と相まって説得力があります。
http://ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/item/md/rsc/p/7165/


このページでは、寄付の構造として、寄付者、寄付の受け手、寄付の受益者という3つの主体があり得ることを確認しました。

そもそも、というところから寄付を考えるにあたって、この3つの主体がどんなかかわり方をするのかは大切な切り口だと思っています。